2010年11月27日

行灯、提灯、そしてホテル

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 行灯袴という袴があります。

 ご存じのように、袴は馬に乗れるよう二股に別れたズボン状の馬乗袴が基本形です。

 その略式のものとして、町人にも袴が着用されることが多くなった江戸時代の後期に襠がないシンプルな形状のものが発案されました。
 長い巻きスカート状のこの袴はすとん、と真っ直ぐなかたちが行灯を思わせたからか行灯袴と呼ばれました。

 うん、たしかに行灯みたい。
 こんな風にぽわんと燈明が灯るさまを想像してしまいます。


 そうしたら、そうしたら。
 スカートをかたどったランプが実際にあるというではないですか。



 ドイツのデザイナー、アンゲリカ・メーアラインさんが今年11月24日に発表した「グランドホテル」というフロアスタンドのシリーズです。

 「グランドホテル」は、ホテルの来客とスタッフの姿にインスピレーションを得たもので、これはそのスタッフのシリーズにあたります。

 実際のシェフのボタンで装飾されたハイカラーのシェフコートとダークグレーのエプロンを象ったものが「シェフ・エンリコ」。
 そして、ウェイターの「ジオ」と女性寝室係の「ミリアム・ミリアム」と名前がつけられています。

 来客、ゲストのシリーズはこちら。



 ピンクのふりふりの方はフランスの貴婦人をイメージした「ブリジット」。
 黒のシフォンドレスの方はロシアの妖婦をイメージした「ナターシャ」。

 なんかこれ、えろい!
 すんごくえっろ〜い!!


 しかも「ブリジット」に「ナターシャ」ですよ。

 名前つけますか、ランプに。
 持ち物擬人化って、赤毛のアンかwwww

 でも、皿やティーカップに名前をつけるのとはまた違って、こんなフロアランプだとそんな名前が妙にしっくりと馴染みます。
 「ブリジット」に「ナターシャ」、そう呼ばれるにふさわしい佇まいです。


 ブリジットにナターシャ。

 ああ、ブリジット……
 …ナターシャ……

 こんなランプが部屋の両脇にあったら、いやおうなく室内の雰囲気は18禁ですよ。
 色気むんむんだす。


 どう考えても普段使いには向かなそうですが、どうしようもなく欲しくなってしまいました。
 そんな魔力的な魅力を持ったデザインです。


 行灯を思わせるかたち、ということでいつしか行灯袴と呼ばれるようになった袴。
 ドレスをイメージして作られたこのランプはさしずめ袴行灯といったところでしょうか。

 他にも、たとえばイタリアのファッションブランド、モスキーノはコルセットドレスをかたどったランプを作っています。



 また、同じくイタリアのデザイナー、マルセラ・フォッシさんは洗濯物のランプシリーズをデザインしました。



 灯りの形状や構造と衣服のイメージが重なるというというのはよくありそうなことのようにも思えます。

 ボブ・クラーク監督の1983年のホームコメディ映画『クリスマス・ストーリー』には妙に艶めかしいランプが出てきて騒動の元になるのですが、うーん、こうしていい大人二人がなでなでしている姿を見てしまうとすごくダメな感じが……('ー';

 ランプなのにね。いや、ランプだから?w


 灯りは部屋の中心となりどうしても目が行ってしまうものだけに、存在感がありすぎても困るものなのかもしれませんね。

  

 行灯袴が注目され、女性の衣服としてよく着用されるようになったのは明治になってからでした。

 西洋の文物を取り入れるようになった文明開化の日本にあって、椅子の存在や乗り物の乗り降り等に裾さばきを気にする必要のない簡便な衣服が求められるようになりました。

 当初は男性の馬乗り袴がしばしば用いられ、例えば官営の富岡製糸場では士族の子女たちが男性の袴を着用していました。

 こうした習慣が目立ってくるようになると、見目よろしくないということで明治16年、文部省が女学校の通学服について男袴の着用を禁じる通達を出しました。


地方によりては女教員及び女生徒の中には袴を着け靴を穿ちその他異様の装いをなすもの往々之ある様に見受けそうろう。
およそ服飾等は務めて習慣に従い質素を旨とし奇異浮華に流れざる様、御取り計らい相成りたく――(略)

辻文部大書記官、各府県令へ宛て通牒, 明治十六年

 そうして、男袴に代わり華族女学校で用いられるようになったのが襠のない行灯袴だったというわけです。

 ズボンとスカートの折衷案。

 膝まで隠れるスカートとしての優美さと、トルコ風のズボンの動きやすいという合理性を組み合わせてエリザベス・スミス・ミラーが生み出したブルーマーと行灯袴はどこか成り立ちが似ているような気がします。

 じゃあ、ブルマも灯りになぞらえられたりするのかなあ。

 ――うん。ちょうちんブルマなんていうのがありました。



 オチがついたところでこのへんで。


図説 ヴィクトリア朝百貨事典 女学生手帖―大正・昭和乙女らいふ (らんぷの本) 参考:
日本文化いろは事典−袴
Wikipedia - 袴
Angelika Mörlein : studio mörlein
モスキーノ : MOSCHINO
PRIVATE CIRCLE by Marcella Foschi
Wikipedia 英語版 - A Christmas Story
靴の歴史


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